1. Yに入社したXは、入社10年後の平成12年11月にはプロジェクトのリーダーとなったが、不眠症などの不調を訴えるようになり、業務の軽減などを申し入れても容れられず、さらに業務を追加されるなどした結果、体調が悪化し、有給休暇をすべて取得した後に欠勤し、休職期間が満了した平成16年9月に解雇された。そこでXは、「うつ」の発症は過重な業務が原因であることから、解雇は無効であるとして、地位の確認と解雇後の賃金、慰謝料等を求めて提訴したもの。
2.東京地裁は、YがXの業務を軽減しなかったことは安全配慮義務違反にあたるとしたが、東京高裁は、Xが外部の医院にかかっていた事実や病名をYに報告しなかったことにも責任の一端はあるとして、過失相殺を認め損害賠償額を減額した。最高裁では、YはXの体調の悪化に気付ける状況にあったことから、労働者が申告しなくても業務を軽減するなど配慮しなければならないとして、過失相殺を認めず、一部を破棄し東京高裁に差戻した。
メンタルヘルスに関する神経科の医院への通院、その診断に係る病名、神経症に適応のある薬剤の処方等の情報は、労働者にとって、自己のプライバシーに属する情報であり、人事考課等に影響し得る事柄として通常は職場において知られることなく就労を継続しようとすることが想定される性質の情報である。
企業者は、必ずしもメンタルヘルスに関する情報について労働者からの申告がなくても、その健康に関わる労働環境等に十分な注意を払うべき安全配慮義務を負っている。
労働者にとって過重な業務が続く中でその体調の悪化が看取される場合には、労働者本人から積極的な申告が期待し難いことを前提とした上で、必要に応じてその業務を軽減するなど労働者の心身の健康への配慮に努める必要があるものというべきである。
労働者がメンタルヘルスに関する情報を企業者に申告しなかったことをもって、安全配慮義務違反に基く損害賠償の額を定めるにあたって過失相殺をすることはできない。
引用/厚生労働省サイト