トップへ戻るTOP

未払い残業を発生させない労務管理体制

サービス残業による未払い賃金を請求されることは、企業にとって大きなリスクとなり得ます。

厚生労働省「監督指導による賃金不払残業の是正結果(令和3年度)」によると、是正企業数は1,069企業、対象労働者数64,968人、支払われた割増賃金の合計額は65億にのぼります。また支払われた割増賃金の平均額は1社あたり609万円との結果が出ています。

企業はサービス残業の実態を正確に把握し、適切な労働環境の整備や労働時間の適正管理を行うことが、リスク回避のために必要です。

 

グラフ

 

出典/厚生労働省「監督指導による賃金不払残業の是正結果(令和3年度)」

 

支払う金額は未払い残業代のほかにも発生します

未払い残業代を請求された場合、残業代のほかに支払う金額には、以下のものがあります。

未払い残業代の請求には、遅延利息とともに追加の支払い義務が生じることがあります。遅延利息は、退職日までは6%、退職日以降は14.6%の利率で計算され、未払い残業代請求と同時に請求されることが一般的です。

また、訴訟が起こされた場合、未払い残業代と同額の付加金を支払うことが求められることもよくあります。例えば、未払い残業代が50万円であれば、付加金も50万円の支払いが命じられる可能性があります。そのため、最終的な支払い額は最大で100万円になる場合があります。

 

サービス残業が発生するのはなぜか

サービス残業とは、労働者が法定労働時間外に自主的に行う労働のことを指します。

具体的には、労働契約に基づく明確な指示や命令がないにも関わらず、労働者が自発的に残業を行い、労働時間外の業務を遂行することを指します。サービス残業は労働者の自主的な意思によるものであり、労働者の裁量で発生するため、労働者に対して給与や割増賃金が支払われない場合があります。

サービス残業は、労働者にとって健康上の問題を引き起こす可能性があり、また法的にも問題があるため、避けることが望ましいです。

以下のように、サービス残業が発生する理由は様々です。

 

業務量が多く、時間内に処理しきれない場合

労働者が担当する業務量が多すぎて、法定労働時間内に全て処理することができない場合にサービス残業が発生することがあります。特に、業務のピーク時や繁忙期には、このような状況が生じやすくなります。この場合、労働者が仕事を減らすことは困難であり、サービス残業を避けるためには、業務の適切な配分や時間管理が必要です。

 

組織の体制が不十分な場合

組織が適切な人員配置を行っておらず、業務が円滑に進まない場合にも、サービス残業が発生することがあります。例えば、人員不足により、代替できない業務が発生した場合には、労働者がサービス残業を行うことで業務を処理しようとすることがあります。この場合、組織が適切な人員配置や業務の優先順位付けを行うことが必要です。

 

業務の効率が低い場合

業務の進め方が非効率的である場合にも、サービス残業が発生することがあります。例えば、業務の進め方が不適切であったり、コミュニケーション不足があったり、ツールの使い方に問題があったりする場合には、業務に余分な時間がかかり、サービス残業が発生する可能性があります。この場合、業務プロセスの改善やコミュニケーションの改善、ツールの適切な活用などが必要となります。

 

未払い残業が発生しない、残業を発生させないしくみづくりが重要です

残業時間の削減、そもそも残業が発生しにくい労務環境が従業員のモチベーション向上につながることは明らかです。

特に現代の若い労働者は、やりがいのある仕事を求めつつ、ワーク・ライフ・バランスを重視しています。そのため、残業が少なく私生活と仕事のバランスが取りやすい企業に魅力を感じています。

未払い残業が発生しない、残業を発生させないしくみづくりとして以下の対策が有効です。

 

残業に対する意識の改革

近年、残業に対する意識の改革が求められています。

「ムダな残業」を未然に防ぐためには、従業員の理解と意識の向上が欠かせません。

管理者には、部下が能力を発揮しやすい環境を整えることが求められます。そのためには、管理者自身が積極的に休暇を取得し、定時に帰るよう心がけることが重要です。これによって、部下にも定時で仕事を終える意識が浸透しやすくなります。

長時間労働はストレスや健康問題を引き起こし、生産性の低下やワークライフバランスの悪化など、様々な問題を引き起こします。残業ありきの業務遂行ではなく、上手な時間管理と生産性向上で、所定労働時間内で業務遂行ができるという意識への変革が重要です。

専門家の研修やセミナーを活用し意識改革を促します。

 

労働時間制度や管理体制の見直し

労働時間制度や管理体制の見直しは、従業員の生産性と労働条件の改善につながる重要な取り組みです。以下に、具体的な取り組みをいくつか紹介します。

 

■フレックスタイム制度の導入

フレックスタイム制度は、従業員が定められたコアタイム内で自由に出退勤できる制度です。これにより、従業員は自分の都合に合わせた労働時間を選ぶことができるため、ワークライフバランスを改善し、モチベーションの向上につながります。

 

■リモートワークの推進

リモートワークは、場所や時間にとらわれずに仕事ができるため、従業員の自由度が高く、生産性の向上につながることが多いです。また、通勤時間がなくなるため、従業員のストレスも軽減されます。しかし、管理体制やコミュニケーションツールの整備が必要になるため、従業員との協力が必要です。

 

■ワークフローのデジタル化

ワークフローのデジタル化により、業務プロセスの自動化が可能になります。これにより、従業員はルーティンワークから解放され、より高度な業務に集中することができます。また、データの可視化により、管理体制の見直しや業務改善につながることが多いです。

 

■管理者の教育・研修の強化

従業員のモチベーションを維持し、適切な管理を行うためには、管理者のスキルアップが必要です。そのためには、リーダーシップやコミュニケーション能力を強化する研修などが効果的です。

 

生産性の向上

生産性の向上には、以下のような取り組みが考えられます。

 

■プロセスの見直し

生産性を向上するためには、業務プロセスを見直すことが必要です。不要な作業や無駄な手間を削減し、生産性の高いプロセスを確立することが大切です。プロセス改善には、PDCAサイクルなどの手法が有効です。

 

■自動化・効率化の推進

自動化技術を活用することで、従来は手動で行っていた業務を自動化し、人手を削減することができます。また、ITシステムやAI技術を活用することで、業務の効率化が可能となります。

 

■組織風土の改善

組織風土の改善には、従業員のモチベーション向上や、意見やアイデアを出しやすい環境づくりが必要です。また、コミュニケーションの改善やチームビルディングなども重要です。

 

■教育・研修の充実

従業員のスキルアップや知識の向上を図るために、教育・研修の充実が必要です。従業員が最新の技術や知識を習得し、それを業務に反映することで、生産性向上につながります。

 

■ワークライフバランスの改善

従業員がストレスや疲れを感じずに働けるよう、ワークライフバランスの改善が必要です。有給休暇の積極的な取得やフレックスタイム制度の導入など、働き方の柔軟化が生産性向上につながる場合があります。

 

これらの取り組みに加えて、経営者や管理者が生産性向上に向けた具体的な目標を設定し、従業員に共有することも重要です。また、定期的な評価や報酬制度の見直しも必要となります。

 


 

未払い残業は、労働者と企業の間で深刻な問題となります。

未払い残業を防止するためには、適正な労働時間管理を行ない労務管理体制の見直しをすることが必要です。

まずは、従業員の勤務時間を正確に把握することが重要です。勤怠管理システムの導入などによって、正確な勤務時間の記録のできるしくみを取り入れましょう。

その上で、労働時間に関するルールを徹底する必要があります。労働基準法に基づいた休憩時間の確保や残業時間の上限設定など、労働時間制度の見直しを行い、労働者の健康と安全を確保することが重要です。

労働者が適正な労働時間で働けるように、明確な指示を出せるよう管理職の役割も重要です。労働時間や勤務管理に関する研修を実施することで、管理職のスキル向上を図ることが望まれます。

従業員と企業の双方が納得できる労務管理体制を確立し、未払い残業を予防することは、従業員の健康と企業の成長につながります。

社労士など専門家に労務監査を依頼し、潜在する労務管理の課題点を見つけてもらうことは有効です。