リカレント教育とは、学校教育を修了し、就職してからも必要なスキルや知識を身につけるために、定期的に教育機関に戻って学び続けることです。リカレント(recurrent)は「再発する」「周期的に起こる」という意味があります。
欧米では、リカレント教育によって必要な知識や技術を習得し、資格を取得することで、さらなるキャリアアップを目指すというケースが多く見られます。たとえば、フルタイムで大学や専門学校に通い、そこで学んだことを仕事に生かすことでキャリアを形成することができます。
現在の日本社会では、男女共同参画や高齢化社会の影響もあり、家庭に入った女性や中高年層が再就職や社会参加するためにリカレント教育が重要視されています。
リカレント教育は、業務に必要なスキルを身につけるため、企業と教育機関を行き来するものです。多くの場合、現場の業務を離れ、社会人大学などに通います。
一方、リスキリングは、現場の業務を外れることなく、企業研修の枠組みの中で継続的に必要とされるスキルを身につけていくものです。
リスキリングとリカレント教育の違いは、「仕事と並行しながら実施するかどうか」です。
リカレント教育が必要とされる一つ目の理由は、ライフスタイルの変化です。人生100年時代が到来した現代では、従来の単線型の人生設計から、「仕事」と「学びなおし」を繰り返すマルチステージ型の人生設計へと転換が進んでいます。社会がチャレンジを認め始めたことが、リカレント教育の需要を高めています。
リカレント教育が必要とされる二つ目の理由は、技術の進化です。インターネットやIT技術が急速に進歩し、世界経済市場を取り巻く環境も刻々と変化しています。これに対応するためには、教育と就労を繰り返しながら、常に新たな技術を学ぶ環境が必要です。
DXとは、デジタル技術を活用して企業の業務やサービス、組織を変革することです。
DX推進において重要なデジタル技術やそのトレンドは、変化の速度が早く、時代遅れになりがちです。そのため、専門的な知識やスキルでもDX推進の足かせになってしまうリスクがあります。
こうした問題を解決するために、継続的な学びを実践するリカレント教育が求められています。労働者自身の取り組みも必要ですが、企業がリカレント教育を支援する仕組みづくりがDXにおいて重要とされています。
少子高齢化が進み、労働力不足は深刻な社会問題となっています。出産、育児、介護などで仕事のブランクがある人や、定年退職した人などをリカレント教育で再教育し、戦力にします。
競争が激化する現代社会において、企業は多様な技術や能力を持った人材を確保することが求められます。そのためには、従業員が継続的にスキルアップすることが不可欠です。リカレント教育を通じて、企業で活躍する従業員が再教育を受け、最新の技術や能力を身に付けることができます。その結果、「企業全体のレベルアップ」と「競争力の向上」が期待できます。
企業の競争力や生産性を向上させる最も直接的な方法は、高い付加価値を生み出すイノベーションを持続的に創造することです。多様な知識や経験を持つ人が多い組織ほど、その組織のパフォーマンスが高まることが、様々な研究から明らかになっています。多様な知識や経験を持つ人材が増えることで、イノベーションの創出に繋がり、競争力や生産性の向上が期待できます。
雇用の流動化は、人材流出のリスクを高めます。優秀な人材ほど自己研さんや自己学習の意欲が高いため、より成長できる環境を求めて離職する傾向があります。企業がリカレント教育を支援することで、優秀な人材の流出を防ぎ、定着率を高める効果が期待できます。働きながらキャリアパスを形成する環境を整備することで、社員全体の離職率も下がり、人材不足の深刻化を防ぐことができます。
最近、SDGsの重要性が高まっていることもあって、企業のCSR活動も注目を浴びています。SDGsは、社会的意義が大きく、企業がCSRに取り組むことで、ステークホルダーからの信頼も高まります。「質の高い教育をみんなに──教育は課題解決の糸口」という目標がSDGsに挙げられています。リカレント教育に取り組むことで、日本の企業は企業価値の向上が期待できます。
リカレント教育は、生産性や競争力、定着率、企業価値などに効果が期待できる重要な取り組みです。しかし、これまであまり普及していなかったため、導入を進めるには制度の見直しや新たな仕組みが必要です。企業がリカレント教育に取り組む際には、以下の点に留意する必要があります。
リカレント教育を実施するにあたっては、従業員の休職・復職、時短勤務、人事評価などの制度の見直しが必要です。たとえば、大学などに通って復職後、元の職場に戻れないことや、受講期間のブランクによって評価が下がることなど、従業員に不安を与えることがあるため、従業員が安心してリカレント教育を受けられるような仕組みを整えることが必要です。また、休暇中の給与や福利厚生、復職後の処遇なども見直すことが重要です。
2.コストがかかる
従業員のリカレント教育を企業が支援するには、新たな制度の導入や運用が必要であり、人的コストが発生します。学費の一部を負担する場合は、予算が必要になります。国や行政によるリカレント教育への支援や助成金も提供されているため、これらを活用することも考慮してみましょう。
「リカレント教育の現状」についてOECDが調査した結果、日本の成人教育の「柔軟性」(教育機会を柔軟に得ることができるか)は、34ヶ国中33位、「ニーズ」(教育が労働市場のニーズに合致しているか)は31ヶ国中31位で最下位であることが分かりました。
リカレント教育においては、時間・距離の制約や遠隔教育の整備などによって柔軟性を高め、訓練の有用性や将来のニーズに対応する取り組みが必要です。労働市場のニーズに合致した学びを推奨し、受講後には学んだことを活かせるポジションに配置するなど、得た知識とスキルを活かせる場を提供することが、リカレント教育における重要なポイントとなります。
まずは、従業員の学習方法を整備することが大切です。社内で教材やカリキュラムを作成すると時間とコストがかかりますが、国や外部企業が提供する学習ツールを活用すれば簡単に環境を整えられます。
リカレント教育で高いスキルや知識を習得しても、企業がそれを適切に評価しなければ、キャリアアップや年収アップを目指して他社に転職してしまう可能性があります。そのため、リカレント教育の導入に合わせて、評価制度を見直す必要があります。
また、リカレント教育の制度を導入しても、学習の時間が確保できなければ、従業員が利用することはできません。従業員が制度を理解し、積極的に学ぶためには、評価や休暇に関するルールを制度として策定し、従業員に事前に説明することが大切です。
企業がリカレント教育を導入する目的は、従業員のスキルや知識を向上させ、生産性向上や業績改善を行うことです。実施する対象や目的を明確にすることが必要です。
例えば、特定業務を担当する社員には業務に直結した学習内容を提供し、管理職や中堅社員にはキャリアアップに繋がるような発展的な学習内容を提供することが適切です。対象や目的を明確化することで、従業員が自身に適した学習内容を選択することができます。